子どもに泣かれることを喜ぶ大人

保護者や慣れ親しんだ担任が離れようとする時、子どもが泣いて後を追いかける“後追い”があります。

子どもが自分を求めて泣いて縋ってくる姿に、一種の喜びのようなものを感じている保育士や保護者がいるのではないかと感じています。

保育園はチームでの運営です。

担任がずっとそばについていられるわけではなく、合同保育の時間では他の保育者がその子を見なくてはならなくなります。

色々な人と関わらなけらばならないのが、保育園での生活です。

ところが、自分のクラスの子どもに対して、「泣いてしまうから」と頑なに他の職員と関わらせないようにする保育士も中にはいます。

しかもそれが無意識だったりするのです。

人見知りをしてしまい、泣いてしまうのは仕方がありません。

しかし、だからといって他人との関わりを減らしてしまっては、その子の成長に繋がらないというのに…。

0歳児クラスで補助に入る職員を制限した結果、他の職員との信頼関係構築が難しくなり、進級したクラスで泣きが激しく困っているという状況になっている子もいます。

子どもが泣いていると心を痛めてしまい、勤務時間を過ぎても「泣いているから」と、わざわざサービス残業をしてその子の対応をしている若い先生もいました。

代わりにクラスに入ってくれている職員がいるのにも関わらず。

子どもを泣き止ませてあげたいというのはとても優しい気持ちですが、その行為は他の職員に対して「あなた達だと泣いてしまうから信用ならない」というような態度です。

実際そう思っているのかもしれませんが。笑

本当に子どものことを思うなら、子ども達の保育園生活を快適に送れるように、色んな先生との関係を作ってあげるべきです。

人見知りで泣いてしまうかもしれませんが、他人と関わる機会作りは必要です。

そもそも、子どもが泣くことは悪いことではありません。

私の尊敬する先輩は、0歳児クラスで「“あなた達はたくさんの人に愛されているんだよ”と知ってもらう、“人慣れ”を大事にする」とおっしゃっていて、子ども達を連れてよく色んなクラスに遊びに行っていました。

そうしてクラスの担任以外との交流をたくさん深めたその年の0歳児クラスの子ども達は、進級して新しい担任になっても落ち着いて過ごすことができていました。

その翌年、私が0歳児クラスになったのですが、私も先輩を見習って他の職員や他クラスの子ども達との交流を多く持ちました。

かなり人見知りが強い子がいて、新しい場所にも大泣きしてしまう子がいたのですが、経験を増やすうちにどんどん平気になり、進級後も笑顔で過ごしていました。

そして次の年の0歳児の担任は職員に対する好き嫌いがあり、補助に入る職員を固定していました。

園庭や散歩先で一緒に遊ぶことはありましたが、他クラスや他職員との積極的な交流はありませんでした。

その結果、かなり歪んだ愛着形成をしてしまい、進級後も新しい担任と信頼関係を築くのにほぼ一年かかりました。

その翌年の0歳も同様で、クラスの子が泣いていれば他の職員に任せず担任だけで対応していました。

そして現在、子どもは前年度の担任以外との接触を拒んでいる状態です。

しかしその担任達は、一生懸命保育しているつもりなのです。

愛情を持って関わっているつもりなのです。

私はこの状況が、保育士達の自己肯定感の低さから起きているのではないかと考えています。

「自分を求めて泣いてくれることが嬉しい」

「他の職員に懐くことに嫉妬する」

「自分だけが泣き止ませてあげられることへの優越感」

本人達に自覚はないかもしれませんが、こうした思いが潜在意識的にあるのではないでしょうか。

保護者にも似たような方がいました。

「子どもが自分以外からミルクを飲まなくて困っている。」と相談に来られたらしいのですが、よく話を聞くと

そのお母さんは、他の人が抱っこをしてその子が泣き出すと、すぐに抱っこを代わってしまうのだとか。

他の人がミルクをあげようとしても泣いてしまうと、すかさずお母さんが戻ってミルクをあげるそうです。

「自分以外から飲まなくて困っている」と言いながらも、行動は「自分以外から飲まないように仕向けている」のでした。

そのお母さんも無意識でした。

多少泣いても任せてみれば良いのです。

赤ちゃんはやっぱり産んでくれたお母さんが一番ですから、他の人になかなか慣れないのは仕方ありません。

けれど、お母さんに優しく見守られながら他の人にも抱かれることで、少しずつ他の人への安心感も育っていきます。

しかし、自己肯定感が低いと子どもが「自分を承認してくれる存在」になってしまい、子どもに泣かれたり求められたりすることで、満たされるような感覚になってしまうのです。

こうした大人達の精神的な問題の解決が、健全な子育てにつながると思っています。

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